harustory’s diary

日々の思索、その物語

天人五衰

天界に住まう天人であれ、その姿は衰えていくという。ああ、僕の頭上の花鬘は、やがてその糸に綻びをみせるであろうか!ああ、私の透き通るような衣は埃と垢をつけるであろうか!
私の腋下からは汗が滲み、目眩は感覚をずれさせるであろうか!そして、ぼんやりとした退屈さがやがて僕を死に至らしめるであろうか!
ああ、ああ、それは天人五衰

  

  人はいう。「やがて朝はくる。明けない夜はない。」と。おお、なんという戯言でありましょう!夜は明けなくてよいのです。夜はいつまでも私たちを支配し、月は皓々たる光でいつまでも太陽を蹂躙するのです。

  僕は永遠に夜の暗闇のなかで生き続ける。太陽がのぼるということは、時が、時間が、生命を与えられること。自然が活動をするということ。そしてそれは私たちの自然への呪縛をあらわす。生は即ち死への道程。それは、つまりは老いたる肉塊の甘受。衰退。 夜闇を貫く曙光は、月夜の灯を消しながら空を占めていく。ああ、それはまるで壊れていく世界…     

  僕は宵とともに生まれ、丑三つの刻より羽ばたく!それはまるで月夜に舞う天女。僕は月の光りに照らされるとき、生命の呪縛から解き放たれてる。 そして月の反射を受ける僕は永遠のなかを歩き続ける。それは終わりなき循環。

  故に、僕に五衰は訪れない!僕はいつまでも若く、そして美しいんだ!


 
 今、僕の身体はその衰えをみせていない。しかし、年月は、僕が決して天人五衰を免れる人物ではないであろうことを突きつけるであろう。「自分は特別なんじゃないか。」そんな夢想は、所詮凡庸さを隠す隠れ蓑であったことを痛感するであろう。
  人は矛盾をその身に抱える。利他的であらんとしながら、僕はナルシストであり、利己的である。美しくなければ全ては綺麗ごとと化す。嘘であってほしい事実は否応なく僕の胸を穿つ。
 外見的衰えがその兆候を見せ始めたとき、僕はどうなるであろうか。決意はその強固さを保つであろうか。剥き出しになった内面が僕をせせら笑うのではないかと、空疎な僕は感覚している。